アポリポプロテイン(a)[アポ(a)]の分子量や血中レベルは各個人によって大きく異なり、共優性遺伝する。そこで、アポ(a)アイソタイプと血中レベル、血栓傾向を予測することを目標に、アポ(a)遺伝子の5′転写調節領域やクリングル4領域の相違を検索してきた。まず、米国人と日本人の健常人、及び日本人の脳梗塞と心筋梗塞症例の末梢血からゲノムDNAを抽出して、個人のアポ(a)遺伝し5′領域をタイピングした。また、4つの5′領域タイプの転写活性をCAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)ベクターを用いて直接比較し、次の結果を得た。 (1)健常の白人66名のアポ(a)遺伝子の5′発現調節領域は、A、B、C、Dの4つのタイプに分類された。これに対して日本人の正常者58名のアポ(a)遺伝子の5′発現調節領域には、上記の4つのタイプのうち3つしか見られず、Bタイプを欠いていた。日本人の脳梗塞68例のアポ(a)遺伝子の5′発現調節領域は正常人のそれとほぼ同様に頻度分布しており、有意差がなかった。また、日本人の心筋梗塞50例では、Dタイプが有意に少なかった。 (2)CATアッセイの結果、Aタイプの転写活性を100%として他のタイプの活性と比較すると、Bタイプはほぼ100%、C、Dタイプはそれぞれ200%、70%であった。従って、最も転写活性の高いCタイプと最も低いDタイプの間には約3倍の差があった。 従って、心筋梗塞症例でリポ(a)血中濃度が高いことの一部は個人のアポ(a)遺伝子の5′領域の転写効率の違いで説明できる。5′発現調節領域の多型性は個人のリポ(a)血中濃度の高脂血症薬に対する反応や各種疾患での変動に関与している可能性があるので、臨床例の検体とこのCATアッセイ系を用いて検討する予定である。
|