研究概要 |
造血器腫瘍では染色体異常,特に染色体転座が多く観察され、病型や病態との相関が強く認められる。これら染色体転座の結果、活性化される遺伝子やその遺伝子異常の研究は発癌機構の解明,並びに臨床診断に直接つながる可能性が高い。申請者らは染色体11番長腕(11q)に高齢者に認められる11q13及び11q23領域の遺伝子の造血器腫瘍における役割を検討している。 本年度は11q13領域に関しては、リコンビナントPRAD1/CyclinD1遺伝子産物にて作製した5D4モノクローナル抗体を用いて、35例のマントル層リンパ腫を含めた270例の悪性リンパ腫を免疫染色法にて解析を行った。その結果、非ホジキン・リンパ腫219例中105例(48%)に陽性所見を得た。この抗体は非腫瘍性のマントル層には陰性であるが、マントル層リンパ腫の35例中32例(89%)に細胞質の淡染に加えて核が濃染する特有の所見が得られた。本抗体はリンパ腫の臨床病理的診断価値が非常に高いことが明らかとなった。今後核染の分子機序及び染色様式と臨床病態との相関が明らかにされるものと期待される。 11q23領域より単離したMLL遺伝子に関しては、本遺伝子が化学療法剤,特にトポイソメラーゼ阻害剤などによる二次性白血病の標的遺伝子であることを明らかにした。転座切断点におけるRT-PCR法を確立し、微小残存腫瘍の同定を可能とし、治療効果のモニタリング,再発予知に寄与するものと考えられた。また、機能解析の一助としてMLL遺伝子産物に対する抗体の作製に成功し、現在、正常及びキメラ・MLL遺伝子産物の細胞内局を検討している。また、トランスジェニックマウスを作出してその表現型、遺伝子型の解析を進めている。
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