研究課題
一般研究(B)
新しい免疫抑制剤の開発により移植成績は飛躍的に向上したが、拒絶反応の制御は難しく、また、感染症や悪性腫瘍などの合併症により失なう症例も少なくない。抗原特異的な免疫抑制法の開発が急務である。我々は動物が本来かねそなえている免疫学的にホメオスターシスを維持する機能に注目して拒絶反応を制御する方法を検討してきた。これまで、ラットを用いた肝、心同種移植の系において移植前に門脈内にドナー脾細胞を投与することにより、抗原特異的な免疫抑制効果を得ている。本研究では、ドナー脾細胞門脈内移入によって誘導される免疫抑制機序の解析として、ドナー脾細胞のホストでの遺残(Micro-chimerism:MC)と移入細胞が惹起するであろうgraft-versus-host reaction(GUHR)の検討を行なった。ドナー脾細胞投与による投与抗原の局在は、PCR法によるRFLP解析を導入し、アロ脾細胞(DNA)の存在を非常に感度の高い方法でとらえることが可能となった。この方法を用いて検討した結果、経門脈的に投与した脾細胞のDNAは28日目までホストの脾臓内で存在すること(MC)を確認した。さらに、ドナー脾細胞自体の存在をモノクローナル抗体を用いて免疫組織学的に確認した。次に、このMCの成立あるいはこれがひきおこすであろうGUHRを否定する条件、すなわち、放射線照射あるいはMMC処理を行なった脾細胞を用いて同様の実験を行なった。放射線照射群では無処置脾細胞と同等の1週間程度の、MMC処理群では平均約90日の生着延長効果が得られ、門脈内抗原投与による免疫抑制効果は移入脾細胞が惹起するGUH反応によるものではなく、他の免疫応答を介したものであると推察された。アロ抗原の門脈内投与、さらにMMC処理抗原を用いることにより、生体の防御機能を侵することなく著明な生着延長効果が誘導されることが明らかとなり、今後、この方法は、その臨床面での応用をめざして展開されるものと思われる。
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