欧米のような各種臓器の移植が一般的な治療法と成ってきた国でさえも、近年、臓器不足は深刻な問題となっている。異種移植はブタのような大動物をドナーの対象とするもので、これらの問題を解決する手段の一つと考えられている。しかしながら、液性免疫が主の超急性拒絶反応を起こす異種移植では、その主因である補体反応の抑制が不可欠であり有力な抑制法の開発が望まれるところである。 本研究は、CD59抗原というヒト補体抑制蛋白を異種細胞や臓器に遺伝子工学的手法により導入することにより、異種移植の新しい免疫抑制法を開発することを目的とする。 1)マウス細胞へのCD59抗原の導入:リン酸カルシウム法を用いてマウス線維芽細胞株にCD59発現ベクターを導入し、そのCD59抗原によるマウス細胞のヒト補体への抵抗性を得た。抗体とファックスを用いて、マウス細胞表面にCD59抗原を確認した。 2)CD59抗原の改良:CD59抗原の機能に影響する部位である糖鎖結合部位をPCR法で変化させ、この改良型CD59抗原の機能および性状を検討したところ、SDS-PAGEにて分子量の変化および補体依存細胞障害反応による感染細胞のヒト補体抵抗性の増強を示した。 3)可溶化CD59抗原の応用:遺伝子工学的にCD59抗原の膜結合部位を除去して作成した可溶化CD59抗原と、正常構造のCD59抗原の二種の産物をin vitroで大量に生産し、培養細胞に対する影響を検討したところ、十分な補体抑制効果は得られなかった。 以上、平成五年度の研究計画は滞り無く実行された。
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