研究概要 |
ニホンザル8頭を用い、計4回の左肺同種同所性移植実験を行なった。免疫抑制は特に施行しなかった。全レシピエントに対し移植後2,4,7,10,14日目の計5回にわたり、全身麻酔下に右側臥位にて胸腔鏡下移植肺観察を施行した。肋間より胸腔内にアプローチしたのち、硬性鏡を挿入し移植肺の肉眼所見の変化、胸水貯留、及び胸腔内の癒着の程度を観察し、併せて肺生検を行った。その結果、第2病日では、全レシピエントにおいて、移植肺表面はほぼ移植直後と同様の状態であった。組織学的には全例早期拒絶反応であるGrade 1であり、小血管周囲の単核球の浸潤を認めるものの肺胞構造は十分保たれていた。第4病日における観察では移植肺表面の小出血斑と島状の色調変化部分が認められた。組織所見では4例中3例でGrade 2となり、小血管周囲の単核球浸潤がより高度となり、肺胞壁への浸潤もみられたが、胸腔鏡下観察にて、色調がより正常に近い他の部位の生検標本の中にはGrade 1のものも証明されるなど、同一肺葉内でも部位により拒絶反応の進行程度に差が認められた。また、全例において胸腔鏡下肺生検施行に伴う出血、気漏などの合併症は特に認められなかった。 今回の実験結果より、胸腔鏡手技を用いた場合、開胸手術をせずに移植肺全体像を観察することができ、しかも近距離で光源で照らしながら局所の拡大ができることから、移植肺の詳細な観察と確実な組織標本の採取が可能であることが判明した。また、ごく初期の拒絶反応は胸部X線写真上の所見及び肺表面の肉眼所見の変化から推定することは困難であり、肺生検による組織診断がもっとも確実であることが示された。しかしながら、肺移植後の急性拒絶反応の進展様式は移植肺全体として均一ではないことが判明し、その診断には移植肺全体の観察が重要であると示唆された。
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