現在肺移植においては、拒絶反応の早期診断と感染症との鑑別が術後の患者管理上もっとも重要な問題となっており、より確実な診断法が必要とされている。最近、胸部外科の領域では胸腔鏡を利用した内視鏡手術が急速に普及しつつある。この胸腔鏡を用いた場合、開胸手術をせずに移植肺全体像を観察することができ、直視下に十分量の組織標本を採取することができる。また、術後疼痛の程度は小さく呼吸筋機能を温存でき、加えて合併症の頻度は低く入院日数も短いとされていることから移植後急性期の患者のみならず、外来患者にたいしても過大な侵襲を加えずに済む利点がある。このような理由から本研究では、ヒトに近い霊長類であるニホンザルを用いた左肺同種同所性移植実験モデルを作成し、胸腔鏡を用いた拒絶反応の早期診断と進行度の確実な判定の可能性を検討した。今回の実験結果より、ごく初期の拒絶反応は胸部X線写真上の所見及び肺表面の肉眼所見の変化から推定することは困難であり、肺生検による組織診断がもっとも確実であることが示された。しかしながら、肺移植後の急性拒絶反応の進展様式は移植肺全体として均一ではないことが判明し、その診断には移植肺全体の観察が重要であると示唆された。早期の拒絶反応は、適切な治療によりほぼ完全に寛解し得ることから、他の検査法によっても診断が困難であり、臨床的に急を要する場合は、胸腔鏡を使用した移植肺全体の観察と複数部位からの組織標本の採取によって、迅速に拒絶反応と感染症の鑑別及び拒絶反応の進行度の正確な診断を行なうことは、肺移植後の患者管理上において有効な手段となりうる可能性があるものと考えられた。また、胸腔鏡下肺生検操作による気漏及び出血は、胸腔鏡観察下に処理できることから、安全な手技であることが確認された。
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