研究概要 |
単純浸漬保存と冠潅流法を組み合わせた長時間心保存法の有用性を,UW液を用いた保存実験および同所性移植実験を通して,前年度までに証明してきた.本年度は冠潅流液の改善の目的で,UW液の代わりに希釈血液を用いて保存実験を行った. 1.方法:実験には雑種成犬14頭を用いた.初年度4℃UW液による方法と同様にし,心停止,冠血管床のwashout後,心臓を摘出し,直ちに冷却したUW液に単純浸漬保存した.12時間の浸漬保存後,所定の冠潅流液で1時間の低圧持続冠潅流を行った.潅流液として,15℃UW液(15℃UW群)およびH 10%の15℃希釈血液(希釈血液群)を使用し,4℃UW群と比較検討した.(1)心摘出直後,(2)浸漬保存12時間後,(3)持続冠潅流1時間後の計3回,^<31>P-MRSを用いて心筋細胞内高エネルギー燐酸を測定した.高エネルギー物質の指標として,PCrおよびβ-ATPの無機燐酸比(PCr/Piおよびβ-ATP/Pi)を用いた.同時にMRS分析から心筋内pHを算出した. 2.結果:PCr/Piは,12時間の浸漬保存後に全群で心摘出直後の25%以下まで低下し,1時間の冠潅流を行うことで,4℃UW群で43%,15℃UW群で49%まで回復した.一方,希釈血液群では135%まで回復した.β-ATP/Piでも同じ傾向を認め,1時間の冠潅流後の回復率は,4℃UW群27%,15℃UW群38%に対し,希釈血液群80%と有意に(p<0.05)高値を示した.心筋細胞内pHも,冠潅流後の平均値が希釈血液群で他の2群より有意に(p<0.05)高値であった. 考察:浸漬保存後冠潅流を加えることで,心筋内エネルギー状態が改善され,潅流液として希釈血液がUW液より有用と考えられた.今後再び,同所性移植を通して希釈血液の有効性を確認すると共に,異なる潅流液の改善,潅流装置の工夫により,安全確実な長時間心保存をめざしたい.
|