研究概要 |
特定遺伝子の発現を抑制する方法としてアンチセンス法やリボザイム法が従来より注目されてきたが、高濃度のヌクレオチド分子を用いることが必要となる場合がある。これに対し,DNAを標的とするアンチジーンDNAを用いた三重鎖DNA法で標的となる分子数は圧倒的に少なくなる。Epidermal growth factor receptor;EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子は悪性グリオーマの増殖,浸湿に関与している癌遺伝子であり、われわれはこれまでにヒトEGFR遺伝子のプロモーターの調節エレメントに対する各種のアンチジーンDNAを作成し、この領域で三重鎖DNAを形成させるためのアンチジーンの配列条件や方向性、およびヒトグリオーマ培養細胞におけるEGFR遺伝子の転写阻害やその効果について検討した。 G,Tのみで構成したアンチジーンEGFR26-3よりも、Cが6塩基入っているアンチジーンEGFR26-2の方が三重鎖DNAの形成効率が高い、標的領域によって従来のGおよびTのみの構成が必ずしも至適の条件とはならないと考えられた。アンチジーンEGFR26-2により濃度依存性に三重鎖DNAの形成が示唆され、円二色計においても強い不斉構造が示唆された。ヒトグリオーマ培養細胞U87Mおよびヒト扁平上皮癌A431では5μMのホスホロチオエ-ト化アンチジーンによりc-edBのmRNAの抑制効果が認められた。2μMのアンチジーン投与6日後におけるU87MGの細胞増殖は対照と比較して41.8%(p<0.001)までに阻害された。さらにアンチジーンRNA法の効果を証明し、今後レトロウイルスベクターを用いてヌードマウスにおける効果を検討するため、EGFRアンチジーンを発現するレトロウイルスベクターを構築し、転写阻害に必要なタイマーやウイルスの投与期間などの条件について検討中である。 三重鎖DNAの構造や形成機構の解明が未だ不充分な現状では、アンチジーンの設計にあたっては種々のG含量や配向の方向性について検討する必要がある。低濃度のアンチジーンによってc-erbBの発現抑制が可能であったが、さらに他の遺伝子での検討や、より効率の高い遺伝子導入方法との組み合わせによって遺伝子療法への応用が期待される。
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