クモ膜下出血後発生する脳血管攣縮は患者の予後を左右する重大な合併症の1つであるが、その原因はいまだ不明であり、有効な治療法は確立されていない。脳血流を規定する脳血管のトーヌスの調節は血管内膜からのEDRF、エンドセリンなどの生理活性物質、血管外膜からのさまざまな神経伝達物質により行われており、特にNOを介する機構が注目されている。本研究では脳血管におけるNOを介する血管調節機構がクモ膜下出血後どのように変化するかを検討し、クモ膜下出血後の脳血管攣縮との関わりを考察した。まず、ラット、イヌにおいて自家血大槽内一回注入法によりクモ膜下出血モデルを作成し、脳血管攣縮の発生を確認したところ、ラットでは出血1日目に20%、イヌでは出血3日目に30%の収縮が得られた。続いて脳血管壁に存在するNO合成酵素の分布を検討したところ、正常血管では内皮および外膜周囲神経内に陽性反応が認められ、クモ膜下出血後これら内皮および外膜のNO合成酵素は脳血管攣縮の発生時期に一致して著明に減少した。また、ATP、SPなどNOを介する脳血管の内皮依存性弛緩およびNOを介する神経原性弛緩ともにクモ膜下出血後障害されていた。以上によりクモ膜した出血後の攣縮血管においては、NOを介する弛緩機構が障害されていることが確認された。今後NO合成酵素のうちどのタイプの酵素がどのような変化をうけているかを分子生物学的手法を用いて検討する予定である。
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