研究概要 |
グリオーマと髄芽腫に共有する抗原に対するマウスモノクローナル抗体(ONS-M21)の作製(Br J Cancer 68:831-837,1993)に成功したあと、中外製薬(株)との共同研究の下で、この抗体のヒト型化(Mol Immunol,in press)や単鎖抗体の開発にも成功している。現在、このヒト型化抗体や単鎖抗体を用いて、画像診断上における腫瘍部位の正確な診断を行うと共に、抗体単独、あるいはRIや毒素をラベルした抗体による免疫療法の可能性を検討している。また、マウスモノクローナル抗体で認識される悪性グリオーマ関連抗原の抽出に関する研究は最終段階に入っており、その遺伝子配列の同定や抗原発現メカニズムを今後解明すると共に、この発現を制御するプロモーターを解析し、現在着手している組織特異性を有する遺伝子治療に応用する予定である。 グリオーマ運動性因子(GMF)の構造解析および生物学的機能に関する解析を行い、グリオーマ細胞の運動と接着の観点からグリオーマ浸潤の分子メカニズムについて検討を行った。T98Gヒトグリオーマ細胞の培養上清より精製した3種のGMF(GMF-IおよびGMF-II)をリジルエンドペプチダーゼにて処理後、逆相クロマトグラフィーを行い、得られたペプチド断片についてアミノ酸配列を決定した。また、Wetern blotにより、フィブロネクチン(FN)上の種々の機能ドメインおよびextra domain(ED)領域の発現について調べた。分子量の異なる2種のGMFの部分アミノ酸配列の結果、両GMFは酷似しており、FNと一部相同性を示した。GMF-I、II共、C末端ヘパリン結合ドメイン、III型モジュール内細胞結合ドメインを有していたが、胎児期あるいは癌化に伴って発現するED領域について、GMF-IIがED-A,ED-B共に発現していたのに対し、GMF-IはED-A領域のみを発現していた。各種グリオーマ細胞は、GMF-IIよりもGMF-Iに対してより強い運動活性を示したが、接着活性はGMF-IIの方が高かった。また、正常グリア細胞はGMF-I,II共に運動活性を示さなかった。グリオーマのラット脳内移植モデルにおいて、移植グリオーマ細胞は対側に注入したGMF-Iに対して強い遊走能を示した。また、ヒトグリオーマ組織でのED領域の発現を調べた結果、抗ED-A抗体陽性を示す組織では、著明な腫瘍浸潤を認めた。以上より、GMF特にGMF-Iによる運動性亢進がグリオーマ浸潤に重要な役割を演じていることが推察された。
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