脳静脈血行障害の脳循環、脳代謝に及ぼす影響について、ネコによる上矢状静脈洞モデルを作成し、これを用いて調べた。またその結果をふまえて、実際の脳神経外科臨床において最もよく遭遇するのは、手術中における脳静脈の損傷もしくは意図的切離であり、それに伴う二次的脳静脈血行障害であることから、静脈損傷と脳手術を想定した脳圧排モデルを用いて脳静脈内皮損傷と脳血液関門障害についても検討した。まず静脈閉塞による脳循環への影響については、上矢状静脈洞よりシアノアクリレート注入による閉塞後15分、60分してC^<14>ヨードアンチピリン静注によるオオートラジオグラフィーで調べたが、静脈洞内のみの閉塞では脳脈循環は障害されないが、一度脳皮質静脈にシアノアクリレートが逆流して血栓が生じるとその静脈還流域に強い脳循環障害を引き起こし、15分後では還流域のみであるが、60分後にはそれを越えて広範となり、またその周辺部では静脈原性過還流域の発生もみられ、脳動脈虚血より早期から虚血障害の生じることを示した。また、同モデルで高速液体クロマトグラフィーによる透析法とC^<15>-デオシグルコースを用いた脳糖代謝ならびに脳内乳酸膿度を調べたが、やはり脳循環同様、皮質静脈に血栓が生じるや否や糖代謝は著明に低下し、脳内乳酸濃度は早期から増加して5時間後には3倍以上に増加することが明らかとなり、虚血部辺縁の過還流を説明するものとなった。最後にこれらの結果をふまえて施行した脳手術時静脈損傷仮装モデルでの実験では、脳皮質静脈損傷に長時間の脳圧迫が加わると、皮質静脈内比に広範な障害が生じ静脈内血栓が広範に起こり、その結果脳の広範な脳血液関門の障害を招くことがわかった。以上の研究結果から、脳静脈血行障害の結果生じる脳障害は、脳静脈内に生じる広範な血栓の結果、側副血行が失われることによるものであることが明らかとなった。
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