本年度は、蛍光性Ca^<2+>指示薬fura-2により細胞内染色したラット海馬切片潅流標本を用い、細胞内Ca^<2+>濃度およびシナプス活動の記録を行い、種々のpHの潅流液で低酸素・無グルコース負荷による海馬細胞機能への影響を検索し、以下の結果を得た。 (1)低酸素・無グルコース潅流により細胞内Ca^<2+>濃度の急激な上昇の観測されたすべての切片でシナプス伝達は不可逆性に障害され、逆に、再酸素化後シナプスの伝達の回復した切片では細胞内Ca^<2+>濃度の急激な上昇は認められなかった。(2)低酸素・無グルコース負荷による細胞内Ca^<2+>濃度の急激な上昇までの潜時は通常潅流液(pH7.4)に比較して、アルカリ性潅流液(pH7.8)中では短縮したのに対して、酸性潅流液(pH6.8)中では遅延あるいは急激な上昇そのものが消失した。(3)通常pHおよびアルカリ性潅流液中での10分間の低酸素・無グルコース負荷により海馬切片シナプス伝達は不可逆性に障害されたが、酸性潅流液中では大部分の切片でシナプス活動が回復した。(4)低HCO_3濃度、高CO_2あるいは乳酸添加など酸性潅流液調製方法によらず、いずれの酸性潅流液でも低酸素・無グルコース負荷時の細胞内Ca^<2+>濃度急上昇の遅延、抑制が認められた。(5)無Ca^<2+>潅流液中でも通常pHおよびアルカリ性潅流液中では、低酸素・無グルコース負荷による細胞内Ca^<2+>濃度の急激な上昇が認められたが、酸性潅流液中では抑制された。(6)NMDA酸受容体チャネルブロッカーMK-801は、低酸素・無グルコース負荷による細胞内Ca^<2+>濃度上昇を有意に抑制することはなかった。 以上、軽度アシドーシスは低酸素・無グルコース負荷による急性の細胞障害を抑制することが示唆された。また、その機序としてグルタミン酸受容体チャネル等を介する細胞外からCa^<2+>流入の抑制のみならず、細胞内貯蔵サイトからのCa^<2+>放出の抑制も重要な要因となっている可能性が示唆された。
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