研究概要 |
1.イヌの肺を液体で充填し,その間ECLHAで生命を維持する。 重症呼吸不全の気道ならびに肺胞を乳酸加リンゲル液で長期間充填し,病変部に産生される各種の過剰の炎症物質を洗浄排除する新しい治療法開発のため,動物を用い基礎的実験をおこなった。正常の雑種イヌ(平均体重11.1kg,n=5)を用い,頸部動静脈からV-Aバイパスを実施した。肺を液体で充填している間のガス交換を代行し生命を維持するため,本年度は陰圧ボックス脱血法を用い強制的に脱血量を増やし,自己肺血流量がほとんどなくなるようトータルバイパスのECLHAを行った。陰圧ボックス脱血法により,110/min/kgのバイパス血流量を安定して維持できた。動脈圧波形はほぼ消失したからトータルバイパスの目的を達成でき,陰圧ボックス脱血法は有効であった。しかし,肺を液体で充填している時期のPao_2は,52〜58Torrと有意に低下した。前年度の研究で,ECLHAの間腹水と胸水の貯留が大量に生じることが判明したので,プロスタグランディン(PGE_1)を投与して末梢臓器循環の改善を図り,水分貯留防止を検討したけれども,胸水と腹水の貯留を防止できなかった。 2.肺液体充填後の肺機能の回復 6時間肺を乳酸加リンゲル液で充填後排液し10cmH_2O以下のCPAPで6時間管理し,次にIPPVに変更した。1例ではCPAPの間にバイパス血流量が低下して肺水腫を生じた。他の4例はIPPVによりPao_2がECLHA前値に回復し,ECLHAを離脱できた。肺の剖検では,dependent lungに鬱血と浮腫が強く,充填液体の残存を認め,顕微鏡的にも肺組織は浮腫状であった。血鬱膠質浸透圧の経時的低下を認めた。 3.まとめ 生体肺を液体で充填したまま,ECLHAで生命を維持することは,十分な脱血量があれば可能である。
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