研究概要 |
c-erbB-2遺伝子は膀胱癌で過剰発現し,癌の増殖と進展への関与が示唆されている。本遺伝子産物は受容体型膜蛋白であるため,その活性化のためにはリガンドの結合が必要である。最近クローニングされたhuman NDFはc-erbB-2のリガンドのひとつと考えられている。そこで膀胱癌においてc-erbB-2とhuman NDFの発現を検索し、両者の相互作用について検討した。 膀胱癌と正常粘膜から抽出したDNAとRNAをサンプルとして、サザンブロットハイダイゼーションとノーザンブロットハイブリダイゼーションにより解析を行った。その結果、膀胱癌(32例)ではc-erbB-2遺伝子の増幅が2例(6.3%)に認められたが、human NDF遺伝子に増幅あるいは再編成といった異常は認められなかった。c-erbB-2遺伝子の発現は膀胱癌の10例(31%)で正常組織に対して過剰発現していた。一方、human NDF遺伝子は膀胱癌,正常組織ならびに膀胱癌株細胞(5637)において低レベルの発現がみられたが、膀胱癌における本遺伝子の過剰発現はみとめられなかった。以上の結果から,膀胱癌にはc-erbB-2とhuman NDFの自己分泌機構が存在し、c-erbB-2の過剰発現は癌の発生と進展を促進することが示唆された。 c-erbB-2の活性化のためには受容体型膜蛋白HER4の存在が必要とされている。そこで、腎細胞癌におけるhuman NDF、c-erbB-2、およびHER4遺伝子の発現を検索し、それらの相互作用を検討してみた。その結果、腎細胞癌20例ではhuman NDF遺伝子の過剰発現を1例(5%)に認めたが、c-erbB-2遺伝子の過剰発現は認められなかった。一方、HER4遺伝子は正常腎組織ではすべてで発現を認めたが、癌組織では発現を検出できなかった。human NDF遺伝子過剰発現の1例では、c-erbB-2遺伝子の発現は正常組織に比較して低レベルであった。これらのことから、腎細胞癌の増殖と進展にはhuman NDFとc-erbB-2の自己分泌機構の関与は少ないと考えられた。
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