研究概要 |
本研究は子宮体癌発生の分子機構の全容を解明し、子宮体癌の遺伝子診断及び治療法を開発することを目的とした。研究年度内に得た成果は以下のとおりである。 1)子宮体癌に出現する1番染色体の変化は、約80%の症例に観察される極めて特異性の高い異常である。1番染色体の変化が子宮体癌発生過程でいかなる役割を果たすのかを解析するため、ヒト正常繊維芽細胞由来1,6,9,11,18,19番染色体を子宮体癌細胞へ単一移入した。1番染色体単一移入子宮体癌細胞は平坦な細胞形態変化を示し、アクチンストレスファイバーの再形成を認めた。アクチン及びビンキュリン蛋白の増大も示された。さらにヌードマウス上での造腫瘍性及び細胞増殖特性も顕著に抑制されていた。多くの細胞は老化に伴い死滅した。このためヒト1番染色体に子宮体癌の発生に関わる癌抑制遺伝子の存在が示唆された。一方、18番染色体単一移入クローンも同様の変化を示した。このため癌抑制さらには老化を導く機構は単一でなく、複数存在することが証明された。 2)子宮体癌では、17p、18qの欠失及びK-rasコドン12の点突然変異が高頻度に観察されることは1992年に報告した。本研究では、17p-及び18q-の標的がそれぞれp53及びDCC遺伝子であることを証明した。子宮体癌におけるp53遺伝子変異をPCS・SSCP法によりスクリーニングし、塩基配列を決定した。一方をLOHにより欠失し、残存アリルに点突然変異を認める症例が進行癌に多く観察されたため、p53遺伝子の子宮体癌への関与が明らかとなった。さらにDCCmRNA発現の抑制が約半数の癌で観察され、5'側にDNA一次構造の変異も確認された。K-ras及びDCC遺伝子変異は早期から進行癌に至る全てのステージで普通的に観察され、p53遺伝子変異は進行症例でのみ認められた。しかし上述の遺伝子変異は全ての子宮体癌で観察されるわけではなく、子宮体癌発生の分子機構は単一でないことも示唆された。
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