研究概要 |
1)リンパ節転移を特徴づける蛋白発現:転移能を獲得した株では全て親株にはないLECAM-1を発現し、転移株はリンパ節に特異的なhoming受容体を持つことが明かとなった。さらには基底膜蛋白nidogenの強い発現(mean±SD=300±75%、p<0.05、対親株比)が転移性株に特異的に見られ、これらの転移性細胞における基底膜の産生能の亢進が強く示唆された。さらに興味あることに転移性株ではERが親株の1/3にまでに減少しており、逆にPRは消失していた。ErbB-2は転移株により強く(mean±SD=250±80%、p<0.05)発現していた。一方EGFR,CD44,MT-MMP,ERCC,AMFR,FASは親株、転移性株いずれも同様に強い発現があり、これらの機能はむしろ原発巣での癌細胞の浸潤という特性に関係するものと推測した。2)転移性の体癌株、頸部腺癌株、卵巣癌株におけるc-erbB-2のプロモーター領域に親株とは異なるpolymorphysmを検出した。gel retardation assayでは、EREに結合する複数の蛋白を検出した。これらの結合はcoldのEREのみならず、c-erbB-2のプロモーター領域に存在する3つのERE(♯1:GGTCA ACGGATCC,♯2:GGTCAGGGGCTCC,♯3:GGTCATGGTGGCA)を含むoligomerによっても抑制され、これらの蛋白のERE結合が特異的であることが確認された。3)臨床へのフィードバツク:臨床症例における検討では転移リンパ節において高いnidogenの発現とERの発現低下を確認した。LECAM-1は背景のリンパ球に発現があるため特異的な発現パターンは確認できなかったが、転移巣から樹立した体癌株(n=2)ならびに卵巣癌株(n=3)ではLECAM-1発現が見られた。これに反して原発巣からの樹立株(n=3)にはこのリンパ節homing受容体は検出されなかった。c-erbB-2のプロモーター領域の解析では体癌(n=25)の56%,卵巣癌(n=28)の46%そし頸部腺癌(n=15)の53%に健常組織あるいは原発巣では見られないpolymorphysmを発見した。これらの症例は癌種を問わず予後不良症例でり、とくに多型性にmtslの欠失がこのplymorphysmに伴う症例では早期に肺、肝などへの遠隔転移が起こる傾向を確認した。一方癌抑制遺伝子mtslの欠失は、腫瘍に隣接する健常組織では検出されず、原発巣では全体症例の10%に認めたが、転移巣では50%で検出した。リンパ節転移の選択的治療への応用:nude mouseにおいてErbB-2に対するmonoclonal抗体、CB-11+cisplatin群に有意の生存期間の延長を得た(buffer=CB-11:45日、cisplatin単独:52日、CB-11+cisplatin:63日、n=15、p<0.05)。このことから抗体によるErbB-2の細胞外domainを抑制することで転移性腫瘍のcisplatinに対する感受性が亢進することが示された。またERを導入し過剰発現させた転移性の体癌株では、腫瘍接種から大動脈リンパ節転移を伴った癌性腹膜炎発症までの時間が有意に延長し(平均35vs67日、p<0.05)、ERを過剰発現することで転移能の低下が起こることが観察された。
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