研究概要 |
内耳のイオン環境および水分代謝を制御すると考えられる種々のホルモンレセプタおよびイオンチャンネルの分子構造を決定し,そのmRNAの局在部位および蛋白質の発現部位を同定することにより,内リンパ水腫を病因とするメニエール病発症の分子機構を解明することを目的として研究を遂行した。 本研究により得られた新知見は以下の通りである。 1)内耳(蝸牛・内リンパ嚢)よりのmRNAの抽出,逆転写酵素によるcDNAの作製,PCR法によるホルモンレセプタ・イオンチャンネルの増幅,増幅したcDNA塩基配列のシークエンス解析,in-situ hybridization法によるmRNA局在部位の同定といった一連の分子生物学的研究が可能であった。 2)蝸牛endothelin recetorの発現,局在,機能について解析を行い,同レセプターがメニエール病における難聴発症に関与する可能性を示した。 3)蝸牛および内リンパ嚢にβ-adrenergic receptorが発現している事を示した。同レセプターは内耳電位の発生およびリンパ液の吸収に関与すると考えられ,特にセカンドメッセンジャーであるcAMP濃度を修飾する事により水分代謝の調節を行うと推察された。 4)内耳のcAMP濃度を増加させる物質としてforskolinを投与すると内リンパ液中のCl-イオン濃度は上昇し,さらに内リンパ液浸透圧の上昇が惹起され,メニエール病の原因とされる内リンパ水腫が形成される可能性を示した。 5)有毛細胞は,その細胞外液の浸透圧の変化に際して,Cl-チャンネルにより体積の調節を行う事を示した。内リンパ水腫形成時の浸透圧およびCl-イオン濃度の変化は有毛細胞の機能変化を起こし,耳鳴り・難聴の発症原因となる可能性を示した。 6)内耳における水チャンネルAQP2の発現を示した。同チャンネルは細胞内のcAMP濃度の上昇により細胞膜に挿入され水を選択的に透過させるもので,内耳の活発な水分輸送機構の主役として機能している可能性を示した。同遺伝子あるいは同蛋白質の異常により,メニエール病内リンパ水腫が発症する可能性が推察された。
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