研究概要 |
培養網膜色素上皮細胞の細胞遊走におけるPKC阻害剤の影響について: ヒト網膜色素上皮細胞(RPE)を培養し、confluenceの時期に培養RPE単層の中央に直径2mmの円形のろ紙を設置し、その上部から直径1.5mmの冷凍凝固チップをあてる。ろ紙を除去すると、直径2mmの円形の細胞欠損領域が作成された。プロテインキナーゼC(PKC)選択的阻害剤(Staurosporine,H-7)を培養液に混入し、細胞欠損領域のRPEの修復過程を位相差顕微鏡および走査型電子顕微鏡にて観察した。阻害剤混入のないものをコントロールとした。また、cAMPとcGMP依存性プロテインキナーゼを強く阻害し、PKC阻害作用が少なく、構造的にH-7類似のHA-1004も対照のため使用した。 コントロールでは、創傷作成後10時間で創傷辺縁の細胞にruffleと突起伸展が観察され、48時間で辺縁細胞の突起延長と移動が著明となり、約1週間で細胞欠損面積の約70%が細胞で被覆された。H-7(100 uM)あるいはStaurosporine(100 nM)で、辺縁細胞の突起伸展は認められず、修復されなかった。HA-1004では、創傷修復は阻害されなかった。また、H-7による抑制は可逆的であり、H-7で10時間培養後阻害剤のない培養液に置換すると創傷修復が認められた。さらに、PKCのpseudosubstrate domainとして、いっそう選択的にPKCを阻害する合成ペプチドにミリステリ酸を添付して使用したところ、H-7のような細胞欠損領域の修復阻害はみられなかった。現在、この阻害剤の細胞への移行が影響するのか、濃度が問題になるのか検討中である。 以上のH-7やstaurosporineの結果から、PKC活性はRPEの移動、創傷治癒の調節に重要な働きを担っていると考えられた。PKCは、アクチンのポリメライゼーションを調節することが知られる。このアクチンの伸展に基づく細胞遊走状態が、PKC阻害剤によって影響された事が示唆された。しかし、新しい合成ペプチド阻害剤があまり遊走を抑制しない結果について、今後の検討を必要とした。
|