研究概要 |
今年度は咀嚼器官とその制御中枢の発達調節因子について解析してきた.研究材料としてはICR系マウスと歯の萌出しない大理石病マウス(op/opマウス)を用いた.前者は咬筋の発達過程における性差の発現のメカニズムと咬筋を支配する三叉神経運動核の神経細胞構築の雌雄差の研究に供された.咬筋の生後発達をLactate dehydrogenase(LDH)のアイソザイムの経日的変化という観点から調べた結果,性成熟の過程において雌雄間で差があることが明らかになった.雄型のアイソザイムパターンは精巣の摘出により雌型に移行したが,卵巣の摘出により何ら変化は見られなかった.これらの結果を踏まえて男性ホルモンの影響とリセプターの存在について解析したところ,雄型のLDHアイソザイムパターンの発現にテストステロン等の男性ホルモンが関与しており,咬筋に男性ホルモンのリセプターが存在することを示唆する結果を得た.一方,咬筋を支配する三叉神経運動核にも雌雄の差があるのではないかという仮説のもとにHRP法で調べたところ,構成する細胞数が雌では雄と比べて有意に少ないという結果を得た.さらに,早期の歯牙の喪失が脳にどの様な影響を与えるかについて,遺伝的に歯が萌出しないop/opマウスを用い解析した.その結果,咬筋支配の三叉神経運動核の神経細胞数がop/opマウスにおいて著しく減少することが明らかになった.このマウスの歯は埋伏した状態で一生萌出せず歯根膜もほとんど形成されないため,本来歯根膜に分布している知覚性の神経終末からの感覚入力がほとんどないと考えられ,このことが上記のような結果を引き起こすのであろうと推測される.さらに,本年度の研究でジストロフィーマウスにける咬筋の生後の変化についても興味ある結果を得た.以上の結果は5編の英文論文として公表された.
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