研究概要 |
咀嚼器官の正常発達およびその発達を制御する因子と,その異常を引き起こす原因について体系的に研究を推進してきた.すなわち,末梢効果器である咀嚼筋の正常発達の詳細な解析と咀嚼運動制御に関与する三叉神経系の発達との関連性を形態学的に詳細に研究した.特に末梢からの求心性の入力,本研究では歯根膜に分布する知覚神経終末から中枢への刺激が咀嚼制御中枢の発達にどのような影響を与えるかについての研究を展開した.材料としては歯が正常に萌出する個体と先天的に歯が萌出せず,歯根膜も殆ど発達しない大理石病マウスを用いた.その結果,歯根膜からの知覚性の入力が咀嚼システムの正常な発達と恒常性維持に極めて重要な役割を果たしていることが明らかになった.さらに末梢効果器と制御中枢の生後発達の過程で,それらの形態学的,機能的性質に雌雄差があることを平成5年度に発見しているので,その発現機構について体系的な研究を展開した.その結果,咀嚼筋に属する咬筋の成長過程における生化学的な性質の性差発現は,主としてアンドロゲンに依存していることが明らかになった.さらに,アンドロゲンのレセプターは雌雄いずれの個体の咬筋にも存在していることも証明された.また,筋線維の機能的性質はその支配神経によって決定されるという従来からの定説があるため,咬筋神経を切断し,アンドロゲンの作用との関係を検討した.その結果,短期間の神経切断によっては,性差の発現は阻害されなかった.一方,顎の運動を支配する三叉神経運動核の性差発現にはアンドロゲンとエストロゲンが関与していることが示唆された.これらの結果は三叉神経系の発達の研究に今後重要な意味を持つであろう.
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