味覚受容に関わる研究を、コイを材料として種々の方法を用いて行った。 1)電気生理学的方法:味覚神経よりアミノ酸などの水溶液に対する応答を細胞外記録し、アミノ酸にたいしては少なくとも6つの受容機構が存在し、カルボン酸のそれとは異なっている結果が得られた。アフリカツメガエルの卵母細胞に味覚上皮より抽出したmRNAを注入し、味覚受容体を発現させてその細胞の味溶液にたいする応答を調べる実験は、受容体の発現がこの実験期間中殆ど成功せずデータは得られなかった。 2)味覚受容に関わる機能タンパク分子の探索:コイ味覚上皮より抽出したmRNAから逆転写反応でcDNAを合成し、それを鋳型としてGTP結合蛋白質αサブユニットから2ケ所のsequenceをprimerとしてPCRを行い、約300塩基の味覚器由来のcDNA断片を得た。この断片からクローンを分離してプラスミドDNAを抽出して14のクローンを選択しそれらのsequenceをジデオキシ法により解析した。その結果、得られたクローンのインサート塩基配列は10個がGi型、1個がGs型に類似した配列をしていた。前者は既に味覚器で知られているGustducinによく似ており、コイ味覚受容機構に介在するGTP結合蛋白質である可能性が高いものと考えられた。さらにこの遺伝子が味覚上皮組織中のどの細胞に発現しているのかをin situ hybridization(mRNA target)法で確かめたところ、味蕾内の細胞にのみ現極して検出され、さらに味覚受容に関わる機能タンパクであることが強く示唆された。 3)アミノ酸結合の特異性:電気生理学実験により判明しているアミノ酸応答の選択性が受容膜レベルに起因しているかどうかを[^3H]標識した種々のアミノ酸の結合実験を生化学的に行った。その結果概ね電気生理学で得られた結果と一致するものの、受容膜にL-arginineにたいする結合が観察され今後さらなる詳細な実験の検討が必要である。
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