まず、実験的検討として新鮮死体の顎関節部を核磁気共鳴(MR)画像診断装置によって各種条件下で撮像した。その後、同部を通法にて固定しテクノビット樹脂にて包埋し、撮像時と同じ部位・同じ厚さで連続的にマイクロ・カッティング・マシンにて切断し切片を作成し、MR画像と切片を比較検討した。これらから、MR画像のコントラストや異常信号の出現が、解剖学的にそれぞれ何に起因するものなのかが明らかになり、適切なMR画像の撮像条件や診断基準を確立することが可能となった。 次に、得られた条件・基準をもとに顎関節症患者に臨床応用し、MR画像所見と臨床症状、手術所見などとを比較検討した。その結果、顎関節円板の前後的転位と円板形態・内外側転位は強く関連していることが明らかになった。また、下顎頭と関節円板の位置異常によって引き起こされると考えられてきた顎関節クリック音が位置異常の認められない症例にも確認されるなど、必ずしも画像所見と臨床症状が一致しない症例も数多く存在することが明らかになった。 一方、外科的手術(観血処置)が必要となる症例などには、MR画像をイメージスキャナでコンピュータにとりこみ、コンピュータソフト上で3次元構築することによって、患部を立体的に把握することが可能となり、治療方針の決定・治療後における手術法の選択やアプローチに有効な示唆を与えることになった。 今後はこのMR画像3次元構築の手法を応用し、保存的治療が施行された症例についても顎関節円板と下顎頭の立体的位置関係を表現し、治療法の適否や治療の奏効状況の確認が可能となるものと考える。
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