エナメル質の初期齲蝕病変における単一結晶の形態学的変化を解明するため、高分解能電子顕微鏡観察と入力画像をフーリエ変換することによって結晶格子の周期性の変化を検討した。 観察対象としてエナメル質表層から深さ35mumまでの種々の実質欠損のある初期齲蝕病変部を用いたエナメル質表層の変化として はじめに、低倍観察にて結晶の表向の変化と表層の凹凸の出現がみられたがこの段階では結晶格子に明瞭な変化はみられなかった。実質欠損部の拡大につれて個々の結晶にも変化がみられた。第1に脱灰による結晶の巾の狭小化が生じ、同時に結晶周辺部に格子の消失がみとめられた。入力画像をフーリエ変換することによって格子の不鮮明化をパワースペクトルの変化としてより客観的に評価できた。今回観察したエナメル質の初期齲蝕病変 のうち、最も進行した単一結晶の変化として 結晶中央部の空洞化があげられた。正常のエナメル質結晶において、特に中央部が脆弱であるという形態的所見はないので、この脱灰による結晶の空洞化についての理由は今のところ不明である。また一部において 空洞化した 結晶の辺縁部と微わな結晶が結晶格子レベルで接触したところがみられた。これは、Invitroの系においていわゆるマクロ的エナメル質の再石灰に相当する可能性がある。すでに詳細に報告したように健全エナメル質表層への唾液由来のミネラル沈着現象が脱灰エナメル質結晶においてどの程度 生じるものかどうかプラークを除去した試料をInvitroの系で培養実験をおこなう必要がある。さらに、今回観察された空洞化結晶の形成機序、及び空洞化結晶が唾液由来のミネラル沈着現象によってどの程度まで、単一結晶として 回復・修復されるかを今後検索していくことが必要である。
|