研究概要 |
1)顎嚢胞腔の内圧及び内容液浸透圧:嚢胞腔内圧測定システムを用い、平成5年度に引き続き、顎嚢胞38症例の内圧を測定し、内容液21検体の漿質並びに膠質浸透圧を測定し、以下の結論を得た。イ)内圧は膠質浸透圧にほぼ比例するが漿質浸透圧には左右されない。ロ)細菌感染もしくは炎症所見を伴い,内容液の性状が変化すると内圧が昴進する。ハ)内圧と嚢胞の大きさでは皮質骨の吸収が箸しい症例では内圧が低値を示す。ニ)内圧と顎嚢胞の病理学的分類との関連は認められない。 2)嚢胞壁組織中の骨吸収因子:摘出した嚢胞壁を試料とし,HPLC装置によりPGE_2を測定し,ELISA法によりIL-1 β,IL-6,TNF αなどのサイトカインを測定した。その結果,嚢胞壁組織中にこれらの骨吸収因子がすべて検出され,それらの値は嚢胞壁組織の炎症の強弱に比例した。 3)嚢胞壁組織の抗酸化酵素(SOD)の局在:平成5年度の研究より,内圧の亢進に伴いフリーラジカル,過酸化脂質が生成され,嚢胞壁組織を傷害することが示唆されたため,これを防御する抗酸化酵素(SOD)の局在性を免疫組織化学的手法を用いて検討した。その結果,嚢胞壁上皮層の内腔側並びに結合組織中の血管内皮細胞にSODの局在を認め,この知見は病理組織学的炎症所見並びに過酸化脂質の局在性と一致するものであった。 4)研究結果の分析:平成5年度,6年度の研究結果から,顎骨嚢胞による骨の病的吸収は活性酸素・フリーラジカルに起因する組織傷害により嚢胞腔内圧が亢進し,そのメカニカルストレスが嚢胞壁組織の微小循環を更に障害し,骨吸収因子の生成をもたらすことが明らかにされた。また内圧の亢進した嚢胞腔の内容液を抗酸化剤を含有する生理食塩水により置換する治療を繰り返すと,内圧の低下に伴い嚢胞の縮小が認められ,本療法の臨床的有用性が示唆された。
|