本科研申請時の計画では、研究代表者らが開発した咬み合わせの電気的測定装置オクル-ザルマルチスキャナーを改良し、閉口路から中心咬合に至るまでの咬合接触点の経時的変化とそれぞれの接触点に加わる圧の変化が、顎間接障害発生機序とどのように関わっているかを調べることを目的とした。しかしながら平成5年、本装置専用の感圧ゴムを開発製造していた日本合成ゴムが、会社のリストラにて該当部門を撤廃したためセンサー部の供給が不可能となった。急遽代替の感圧ゴムの開発と測定器の改変を余儀なくされ、イナバゴム(本社大阪)とともに当初の目的に合った測定システムを再構成することとした。現在のところ、広範囲に亘る咬合圧(数g〜数100g/mm^2)を感知し、その圧分布を立体表示するとともに咬合面圧の重心と咬合接触点の重心の表示、ならびに圧や面積の総和計算ができるようになった。しかし経時的変化を知るにはサンプリング間隔が約1秒で本研究目的に使用できる水準には達していない。 この様な状況をふまえて、顎関節障害者の顔面の対称性や姿勢の歪み、咬合平面の側方傾斜などと咬合面圧の対称性との関係を本学矯正科来院患者、武雄市朝日小学校児童、本学学生を対象に調査した。結果は、 1.咬合面積の大小によって咬合面圧の総計が大きく左右されるが、単位面積当たりの圧に大きな差はなかった。 2.顎関節障害者では左右瞳孔線の傾きや鼻翼線などにばらつきが有意に大きかったが、症状側を特定する一定の傾向を認めなかった。 3.脊柱が歪んでいる側(偏位側)の咬合平面は上方へ傾いており、咬合面圧は反対側より高い数値を示した。 これらの調査をさらに発展させる一方、咬合の経時的変化を測定できるシステムを作るために測定器の開発を進行中である。
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