一般に病原細菌の菌体表層に局在している多糖抗原は、化学構造の上でも免疫学的にもそれぞれ細菌にきわめて特異的であることが知られている。本研究では、歯周病の診断のため歯周病細菌表層の多糖抗原を用いた酵素結合抗体免疫アッセイ法(エライサ法)の開発を目指す。本年度は、若年性歯周炎の病原菌の1つと考えられているActinobacillusactinomycetemcomitans Y4株と成人性歯周炎の病原菌として注目されているPorphyromonasgingivalis 381株をそれぞれ約1001培養して全菌体を得た。これらの全菌体からオートクレイブ法により多糖抗原を抽出し、イオン交換クロマトグラフィーとゲル濾過法により精製した。精製多糖抗原とウサギ抗全菌体血清との反応性をゲル内沈降法で調べたところ、これらの抗原はそれぞれの菌種に特異的であることが明らかになった。ついで、A.actinomycetemcomitansの精製多糖抗原のヒト単球の走化性とサイトカイン産生に及ぼす影響について調べた。その結果、同抗原はヒト単球の走化性を促進した。さらに、同抗原によって刺激されたヒト単球は、骨吸収因子として知られているインターロイキン1、インターロイキン6および腫瘍壊死因子などのサイトカインを産生した。これらの結果から、A.actinomycetemcomitansの多糖抗原が歯周病における局所の炎症反応およびサイトカインを介した骨吸収に関与している可能性が示唆された。
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