本研究では、脳内における痛覚情報伝達機構に対するIL-1βの役割を検討するために以下の実験を行った。まずラット側脳室内にIL-1βを投与し機械的侵害受容に対する効果を検討したところ、低用量では痛覚過敏を惹起し、逆に高用量では鎮痛効果を発揮することが明らかとなった。またこのIL-1βの効果はIL-1 receptor antagonistによって抑制された。サリチル酸ナトリウムによってはIL-1βの痛覚過敏効果は抑制されたが鎮痛効果は抑制されなかった。さらにαヘリカルCRFを投与したところIL-1βのいずれの効果も抑制された。次にIL-1のレセプターmRNAの正常ラット脳内における発現分布をin situ hybridization法(ISH法)を用いて検討したところ1型レセプターについては視床、扁桃体や延髄をはじめとする種々の脳部位で発現が見られた。しかし2型レセプターについては発現が見られなかった。1型レセプターの発現細胞は神経特異的エノラーゼmRNAとの二重ISH法により神経細胞と同定された。IL-1βはそのプロセシングにIL-1β変換酵素を必要とするがそのISHを行ったところ、正常ラット脳内においてmRNAの発現は見られなかった。さらに脳内の内因性IL-1βが実際に痛覚情報の伝達に関与している可能性を検討するために脳内でIL-1βのmRNAを発現させることが分かっているisoproterenolを側脳室内に投与し、IL-1βmRNAの発現と機械的侵害受容閾値の変化を検討したところ、mRNAの発現は投与後1時間でピークとなり、さらに投与後1時間及び4時間をピークとする二相性の鎮痛効果が観察された。最後に持続的痛み刺激であるホルマリンのラット後肢足底部皮内投与による脳内IL-1βmRNAの変化をISH法で検討したところ視床下部においてIL-1βmRNAの発現が亢進していることが確認された。
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