自己免疫疾患の出産後発症予測とその予防に関する研究

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 05454584
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 網野 信行 大阪大学, 医学部, 教授 (60028694)
• 研究分担者: 矢頃 綾 大阪大学, 医学部・附属病院, 医員 ; 柏井 卓 大阪大学, 医学部, 助手 (00252685) ; 多田 尚人 大阪大学, 医学部, 助手 (80263242) ; 日高 洋 大阪大学, 医学部, 助手 (30243231) ; 玉置 治夫 大阪大学, 医学部, 助教授 (20221400)
• キーワード: 自己免疫疾患 / 出産後発症 / 発症予測 / 発症予防 / 橋本病 / バセドウ病 / 慢性関節リウマチ

研究概要

平成5年度までの研究で血中抗甲状腺マイクロゾーム抗体を測定することにより、潜在性自己免疫性甲状腺炎が確実に把握できることが確立された。また妊娠初期妊婦にこの測定方法を用い、マススクリーニングを行うと全体の7.7%に陽性がみられ、そのうち62%が出産後種々のタイプの甲状腺機能異常を発症する事が明らかにされた。またこのうちバセドウ病も発症がみられ、出産後婦人の200人に一人の割合で発病することも判明した。その発症予測に妊娠初期における高感度TSH受容体抗体測定法が有用であることも確立された。
平成6年度の研究ではこれらの研究をさらに押し進め、より多数例で上記の確認を行うと同時に、出産後の慢性関節リュウマチ発症予測のための分析を行った。妊娠初期妊婦3、965例を対象に、リュウマチ因子としてRAおよびRAHAをスクリーニング検査し、さらに抗核抗体を調べた。RAは1.3%,RAHAは2.6%,さらに抗核抗体は10.5%の頻度で陽性が見られた。このうちRAおよびRAHAに注目し、これら陽性例から出産後に慢性関節リュウマチの発症が見られるかどうかを検討した。患者の協力が得られた8例のうち2例で、出産後新たな慢性関節リュウマチの発症が見られた。以上のことから出産後の慢性関節リュウマチの発症は少なくとも一般女性の2000人に一人の割合で発病する事が判明し、リュウマチ因子の妊娠初期におけるスクリーニング検査がかなり有用であることも分かった。
現在更に出産後自己免疫性心筋炎および出産後自己免疫性肝炎の病態把握と確定診断のため、臨床例を検討すると同時に両疾患の診断のために必要な自己抗体測定法(ELISA法)を開発中である。
またこれら出産後に発症してくる自己免疫疾患の発病を予防するため、甲状腺疾患をモデルとして出産直後からの短期小量のステロイド治療を、出産後発病が予測されているケースに行った。予測通り適切なステロイド量を用いると、これらの発病が予防できる可能性が明らかにされた。

研究成果

• [文献書誌] Tada H,Hidaka Y,Itoh E,Kashiwai T,Tamaki H,Iwatani Y,Amino N: "Prevalence of postpartum onset of disease within patients with Graves′disease of child‐bearing age." Endocrine J. 41. 325-327 (1994)
• [文献書誌] Hidaka Y,T,Tamaki H,Iwatani Y,Tada H,Mitsuda N,Amino N: "Prediction of postpartum Graves′thyrotoxicosis by measurement of thyroid stimulating antibody in early pregnancy." Clin Endocrinol. 41. 15-20 (1994)
• [文献書誌] Hidaka Y,Nishi I,Tamaki H,Takeoka K,Tada H,Mitsuda N,Amino N: "Differentiation of postpartum thyrotoxicosis by serum thyroglobulin;Usefulness of the new multi-stie immunoradiometric assay." Thyroid. 4. 275-278 (1994)
• [文献書誌] Tamaki H,Kaino M,Endo Y,Moriyama T,,Nakajima T Imagawa Y,Amino N: "Enzyme-linked immunosorbent assay for TSH receptor antibodies using the synthetic TSH receptor peptides." J Clin Lab Immunol. 43. 89-98 (1994)
• [文献書誌] Tsuruta E,Tada H,Tatsumi H,Kashiwai T,Asahi K,Takeoka K,Mitsuda N,Amino N: "Pathogenic role of asialo-hCG in gestational thyrotoxicosis." J Clin Endocrinol Metab. 80. 350-355 (1995)
• [文献書誌] Amino N,Tachi J: "Hypothyroidism:Aetiology and management(Chapter8)" Wheeler MH,Lazarus JH eds,Thyroid Disease-Medical & Surgical Management,Chapman & Hall Ltd,London,245-267 (1994)
• [文献書誌] Amino N,Tada H: "Autoimmune thyroid disease/Thyroiditis(Chapter43)" De Groot LJ ed,Endocrinology,3rd edition,W.B.Saunders Company,Philadelphia, 726-741 (1995)