東大病院救急部重症患者病室の入院患者は、頭部外傷や心筋梗塞その他の重症者で、意識が明瞭でなく、また気管内挿管を行っている場合が多い。これらの患者に各種のケアを行った後に、ナ-スの手に付着した汚染菌が、石鹸と流水による手洗い(約30秒)で除菌できたかどうか、除菌できた場合とできない場合の影響因子は何かなどの点について、患者・ケアの種類・ナ-ス・手洗い前後の付着菌の種類から検討した。その結果は、非常に興味深い。即ち、患者やナ-スが変わっても、気管内吸引のような清潔操作が求められるケアでは、ケア後の石鹸による手洗いにより残存菌は皆無であったが、全身清拭のようなかなり手の汚染が予想されるようなケア後でもあっても、同様に石鹸・流水による手洗いにより残存菌は検出されなかった。一方、気管内吸引や全身清拭後の手洗いで、残存菌の検出されなかった同一ナ-スであっても、医師の介助や汚れ物のかたずけなどの後では、菌数は少ないが手洗い後に残存菌は認められた。また、手洗い後の手拭きが不充分なナ-スにおいて、残存菌が認められた。これらの結果から以下のような事実が明らかになった。(1).ナ-スが責任を持ち、主体的に行う看護ケアでは、ケア後の石鹸・流水による手洗いで、ケア時の手指付着菌は全く残存しなかった。この結果は、ナ-スの責任で患者に行うケアに対する、いい意味の緊張感によるものと考えられる。(2).一方医師の介助や汚れ物のかたずけなどでは、手洗い後にケア時の手指付着菌が残存しているケースが見られた。これは、気を抜いているというか、一種の緊張感の欠如によることが考えられる。(3).手洗い後の手拭きが不充分なナ-スに、手洗い後残存菌が検出されたケースは、理由として手洗いテクニックの習得不備によることが考えられる。
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