約2万年前(最終氷期の頃)の花粉組成からは、南西諸島における当時の乾燥した古気候が読みとれた。その頃生息していたと思われる哺乳類化石が、当時の河口域と考えられる地点からのみ発見されることや、樹幹や樹根の化石がほとんど発見されないなどの点から考えて、東シナ海の大陸棚の大半は、乾燥した低平な大地と化していたことが支持される。また、この時期には、九州・沖縄などに規模の大きな古砂丘が発達し、南西諸島においては、風生塵起源のマージとよばれる土壌が広域に発達することも、花粉分析結果から示された乾燥気候と調和的である。 完新世において、汎世界的な海水準の低下をもたらした氷床の後退に伴って海水準も上昇に転じると、乾燥気候もやわらぎ、乾燥した最終氷期を耐えて、ほそぼそと自生してきた照葉樹林は急速に分布域を拡大して、現在の琉球列島の植生を特徴づけているマングローブ・照葉樹林が成立した。また、マングローブ沼生物群集に関する調査結果から、センニンガイの時空分布が明らかになった。センニンガイ属(Telescopium)は、インド洋-西大西洋動物区の熱帯のマングローブの軟体動物群集を代表するウミニナ科(Potamididae)の巻貝である。本属の化石の産生は熱帯気候下で成立したマングローブの存在を指示するものとして古生物学者や生態学者から特別な注意が払われてきている。 今回、センニンガイが現生している可能性を探る目的で、保存状態の極めて良い死殻を選び炭素14年代を測定し、330±80y.B.P.(測定番号NUTA-3084)の年代値を得た。この結果は、マングローブの泥底表面のセンニンガイの死殻は現在生産されているものでは無いことを示しており、生貝が採集されない事実をあわせ考察すると、八重山諸島においてもセンニンガイは既に消滅したものと判断される。
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