透明帯除去ハムスター卵との異種間体外受精法を用いてヒト精子染色体に及ぼす中性子線の影響を調査した。当初の計画では、広島大学・原爆放射能医学研究所・障害基礎部門のRI施設に新しく設置された中性子発生装置を用いて実験を行う予定であったが、同装置の調整・出力試験などが大幅に遅れたため、今年度は同施設が現有する別の中性子線発生装置(線源:カリフォルニウム^<252>Cf)を用いて実験を行った。 健常男性から得られた精液試料を液化後に二分し、一方に1.6cGy/minの線量率で^<252>Cf中性子線を照射した。照射線量は0.25、0.5および1.0Gyとした。他方は非照射対照群とした。 対照群では合計460精子、実験群では合計804精子が核型分析された。対照群でみられた染色体異常精子の自然発生率を差し引き、^<252>Cf中性子線による異常精子の誘発率を計算した結果、各線量における異常精子の出現率は15.2%(0.25Gy)、26.8%(0.5Gy)および49.7%(1.0Gy)であり、線量の増加にともなって直線的に増加することが明らかになった。また、中性子線で誘発された染色体異常を種類別にみると、切断型異常の出現率が交換型異常のそれよりはるかに高く、両者とも線量増加にともなって直線的に増加した。 この研究で得られた異常精子出現率および精子当たりの切断型異常数と交換型異常数について、コバルト(^<60>Co)γ線の結果と比較し、生物学的効果比(RBE)を算出した結果、それぞれ1.48、1.68、3.73となった。^<252>Cf中性子線の場合、γ線が37%の率で混入していることが知られている。そこでその分を差し引いて中性子線だけのRBEを算出したところ、それぞれ1.69、2.09、5.06に増加した。この結果から線エネルギー付与(LET)の高い中性子線は低LETのγ線よりもヒト精子染色体に対する生物効果が高いことが示された。 なお、今年度の研究成果は日本放射線影響学会第36回大会で報告された。
|