研究概要 |
(1)本研究では,医療に用いられているレベルの超音波による生物傷害を世代間に伝わる遺伝的影響と被照射個体に限られる発生学的影響にわけ,そのうち後者の影響を中心に調べた。(2)最初に,X線や超音波の生物作用を細胞,器官,個体レベルで定量的に調べるための新しい実験システムを作った。これによって,独創的な研究が可能になった。(3)超音波の影響を調べるのに常にX線照射群をポジテイブコントロールとして用いた。(4)調査項目は培養細胞では,細胞死,分裂阻害,細胞成分への影響を,ミジンコでは,生存日数,生涯産仔回数,生涯産仔数,一腹産仔数,複眼形成異常を,ヒドラでは,出芽速度,個体死,触手数などである。(5)これらの項目のうち,特にミジンコに関するデーターは生物の生涯(排卵前から死ぬまで)にわたり一匹ずつについて,処理時間との正確な対応の基に得られた(これもこの研究の独創的な面である)。したがって,この系を用いて,将来さらに詳細な研究が個体内の細胞単位で出来る。(6)X線の場合のように,超音波処理群では晩発性の影響や遺伝的影響は殆ど見られず,超音波による傷害の殆どは照射中かその直後に起こっていることが確認された。(7)超音波の個体レベルでの影響は,医療の診断に用いている出力で起きることをミジンコやヒドラを用いて示した。このことは超音波の利用の安全基準について検討する必要のあることを示唆するものである。(8)ラジカルの生成は超音波の生物作用の一因と考えられているが,ラジカルの影響は殆ど無いことをこの実験で確かめた。(9)ヒドラに弱い出力の超音波を照射したとき,無処理群より早い出芽が見られた,またミジンコでも産仔間隔の短縮が認められた。この様なホルメシス的影響が,骨折や腱切断の超音波による促進と関係するかについて細胞増殖と関係させて調べている。
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