研究概要 |
昨年度の研究で、被曝者群(1.5Gy以上)24名と、対象者群(0.005Gy以下)18名より得た末梢血T細胞の6TG^r(HPRT^-)変異細胞、それぞれ53と51クローンについて多重PCRによるHPRT遺伝子エキソン領域の欠失について調べた。本年度の研究では、それら全てのクローンについてRT‐PCRによるいcDNAの回収とシーケンシングによる変異配列の同定をおこなった。 [結果] 多重PCRとcDNAのシーケンシングの結果から、被爆群53のうち3クローン、対象群51のうち10クローンはそれぞれ同一採血サンプルから得られたものであること、全く同じ多重PCRパターン、変異配列を示すこと、から同一クローン由来の疑いが強く除外し、被曝群50,対象群41クローンについて突然変異スペクトルと多重PCRの結果を比較した。 [i]突然変異スペクトル:被曝群、対象群とも得られた突然変異スペクトルは類似しており、それぞれ塩基置換が〜45%,欠失または挿入が〜25%,スプライシング異常によるエキソンの欠失が〜10%であつた。又それぞれのタイプの変異配列についても両群で特に顕著な差は認められない。 [ii]多重PCR:多重PCRで検出されたエキソン領域の欠失パターンについても、被曝、対象両群とも類似しており、cDNAのシーケンシングの結果とほぼ一致している。 これらの結果は、被曝後長時間(〜45年)経過しているため、被曝によって誘発された末梢血T細胞の6TG^r変異細胞は、何らかの機構でほとんど排除されてしまったためと考えられる。今後の研究で、全体の約20%を占めるスプライシング異常について、その原因となるゲノム配列での変異配列を同定することによって、より正確な両群の突然変異スペクトルを確定する予定である。
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