ヒト疾病の多くはその原因が解明され、治癒可能となっているが癌、遺伝病など難治性疾患の多くは、遺伝子異常に起因することが明らかされつつある。それら遺伝病の原因は広義の突然変異であり、突然変異生成機構の詳細な研究は、それら難治疾患の予防、治療に役立つと期待できる。 1.上記観点から、我々はヒト細胞での突然変異事象を詳細に記述できる、HPRTcDNA遺伝子ををつシャトルベクター系を樹立した。その系を用いて、X線はじめ多くの変異源によって誘発された突然変異のスペクトルを得、その解析から、真核細胞の突然変異生成では“DNA合成時のスリップ-誤整合"によるものが大きく寄与していることを提唱し注目をあつめた。しかしシャトルベクター系では、用いたcDNA遺伝子が約1kbと小さく、染色体ゲノム遺伝子のような大きな遺伝子の突然変異事象をどれほど反映しているかの疑問が残った。 2.その疑問に答えるため、ヒトHPRTゲノム遺伝子の突然変異を直接解析する研究を行った。長大なゲノム遺伝子全域に生じた突然変異を解析するため、(1)RT-PCR法によるcDNAの回収とシーケンシング、(2)イントロン領域を含む大きな欠失等を同定する多重PCR法、を併用した。この方法によって、45kbに及ぶHPRT遺伝子全域に生じた突然変異を効率よく検出、同定できる系を確立し、広島原爆被爆者および対象者の末梢血T細胞の6TG抵抗性細胞、それぞれ50クローン以上について突然変異を詳細に解析できた。この方法は、大きな欠失を伴う突然変異を効率よく検出できるので、重粒子放射線などによって誘発される突然変異の解析に有用であること、またミューテーター癌遺伝子によってゲノム遺伝子に生じた突然変異の解析に応用し興味ある結果を得つつあり、今後の発展が期待できる。
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