1990年以後、細菌において薬剤排出蛋白が続々と発見されるようになり、薬剤排出蛋白の中で唯一分子機構の解析が進んでいるテトラサイクリン排出蛋白のモデルとしての意義が急速に高まっている。本研究においては、主として遺伝子工学的方法により、テトラサイクリン排出蛋白の輸送機構の解明を行った。 糖やアミノ酸などの栄養物質の輸送系から、薬剤の排出蛋白にいたるまで、広く保存されている配列モチーフの存在が知られていた。これは、GXXSDRXGRRと表される。このモチーフの役割は不明である。本研究では、テトラサイクリン排出蛋白を素材として初めてこのモチーフの部位特異変異導入による解析を行った。その結果、モチーフ5番目のAsp66と、9番目のArg70のそれぞれ正負両荷電が輸送機能に必須であることがわかった。Arg70については、Lys変異体が輸送活性を野性型の1/3程度残しているのにたいし、中性や産生残基への置換体がすべてほとんど輸送活性を消失していた中で、Cys変異体はLys変異体と比較できる程度の輸送活性を残存していた。これは、Co^<2+>のような2価カチオンがCysとメルカプチドを形成して正荷電残基として働くためであることが証明された。 このモチーフのある細胞質側ループ_<2-3>の10残基それぞれのCys置換体の中で、活性の無いCys62とCys66を除き、SH試薬NEMで阻害されるのはCys65およびCys70のみであった。これらへのNEMの結合は基質の存在により促進された。つまり、細胞質側ループの露出度が基質により高まることが示された。逆に、ペリプラズム側Leu97→Cys変異体へのNEM結合は基質により阻害され、露出度が低下することがわかった。これは、テトラライクリン排出蛋白が基質により、inside-open/outside-closedの構造になることを示している。
|