本研究は、研究代表者により発見された小胞体内腔に存在するEFハンド型カルシウム結合蛋白質、レティキュロカルビンの構造と機能、及びその遺伝子構造を明らかにすることを目的とした。当該年度の研究の結果、次の点が明らかになった。1)レティキュロカルビン遺伝子の構造の全体像が明らかになった。即ち、レティキュロカルビン遺伝子は、6個のエクソンと5個のイントロンとからなることが判明し、その結果、レティキュロカルビンの遺伝子構造(エクソン・イントロン構造)は、S100蛋白質、カルモジュリン、あるいはカルビンディンのそれとはかなり異なることが判明した。また、そのプロモーター領域には、3個のGCボックスと1個のCATボックスが存在することも明らかになった。なお、TATAボックスは認められず、レティキュロカルビンの発現が構成的であるということと一致している。2)マウスのcDNAクローンに続いてヒトレティキュロカルビンのcDNAクローンを単離したところ、ヒトレティキュロカルビンは、マウスレティキュロカルビンに対して、アミノ酸配列では90%以上のidentityを示すことが判明した。興味深いことに、ヒトとマウスのレティキュロカルビンは、カルシウム結合モチーフだけでなく、分子全体にわたってその配列が保存されている。このことは、レティキュロカルビンの機能が、単にカルシウムイオンを結合することだけでなく、カルモジュリンの様に他の蛋白質に結合し、その調節因子として働いている可能性を強く示唆している。 事実、レティキュロカルビンに90および40kDaの蛋白質が結合していることも明らかとなった。さらに、カルボキシ末端にある小胞体残留シグナルであるHDEL配列も両者で保存されていた。このことはHDEL配列が単に小胞体残留シグナルとして機能しているだけでなく、この蛋白質の機能発現において何らかの役割を担っていることを強く示唆している。
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