肝細胞増殖因子(HGF)は、肝細胞の増殖を促進する蛋白性因子であり、肝障害後の肝再生に重要な役割を果たすと考えられている。HGFは一本鎖前駆体として生成・分泌後、細胞外においてプロセシングされヘテロダイマー構造に変換し活性化される。我々は、一本鎖HGFをヘテロダイマーに変換する活性を有する新規のセリンプロテアーゼをヒト血清より精製し、HGF activatorと名付けた。本研究では、HGF activatorのcDNAクローニングを行い、その構造を解析した。またin vivoにおけるHGFの活性化の機序を明らかにするために、肝障害に伴うHGFの活性化について解析した。 1.cDNAの塩基配列の決定により、活性型HGF activatorは、655アミノ酸からなる不活性型前駆体より生成することが明らかになった。また前駆体のもつドメイン構造が、血液凝固VII因子のドメイン構造と同じであった。 2.cDNA構造より推定されたHGF activator前駆体蛋白質をヒト血漿より精製したところ、前駆体は一本鎖型であり、プロセシングにより活性化されることが明らかになった。精製した前駆体を用いて活性型HGF activatorを生成するプロセシング酵素を検索したところ、陰電荷物存在下でトロンビンにより活性化されることを見出した。したがってHGF activatorは血漿凝固に伴って活性化されることが示唆された。 3.正常臓器に存在するHGFは、すべての臓器で不活性型一本鎖前駆体として存在することが明らかになった。ヘパトトキシンにより障害が起こった肝臓では、約30%が活性型ヘテロダイマー構造であった。しかしながら他の臓器では、不活性型一本鎖であった。したがってHGFは障害臓器特異的に活性化されることが明らかになった。また障害肝においてHGFを活性化する酵素活性が誘導されていることを見出した。
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