研究概要 |
我々は,生物時計を支配する遺伝子,タンパク質,および時計機能の分子機構について研究するため,出芽酵母よりかなり広い範囲でショウジョウバエの時計遺伝子perと相同性を示す遺伝子をクローン化し,GTS1と命名した。そして,遺伝子操作でGTS1遺伝子欠損株、多コピーGTS1遺伝子導入株を作成し,1コピーのGTS1遺伝子をもつ野性株と表現型を比較した。その結果,1.成長曲線を3者で比較したところ,成長速度にはあまり差が無かったが,出芽の開始時間が、欠損株で最も早く,多コピー株で最も遅かった。そこで、細胞周期のパラメーターを測定したところ,出芽のタイミングがGTS1遺伝子数,したがって,転写産物量に依存的に変化することを認めた。さらに,cdc4変異株を用いて,GTS1遺伝子の欠損株,多コピー株等を作成し,出芽のタイミングを調べたところ,やはりGTS1遺伝子量に依存したズレが見られた。2.細胞サイズが欠損株で最も小さく,多コピー株で最も大きいことから,この遺伝子は,出芽のタイミングを調節することによって,細胞サイズをコントロールしているものと考えられる。3.GTS1遺伝子産物(GTS1タンパク質)は約45キロダルトンで,種々の糖鎖切断酵素などの実験から糖鎖による修飾は受けていないことがわかった。4.^<32>P標識実験からGTS1タンパク質がリン酸化タンパクで,おもにセリン残基がリン酸化されている事がわかった。このリン酸化はαファクターやDNA合成阻害剤,細胞周期変異株の実験から,G1期に特異的に促進されることがわかった。現在,リン酸化部位の同定とその意義について実験中である。また,抗GTS1抗体を用いた免疫沈降反応で,いくつかのタンパク質と結合している事が認められ,two-hybrid法でそれらの同定を行っている。
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