研究概要 |
ATP合成酵素(F_0F_1)は電子伝達系の形成するH^+とPi(リン酸)からATPを合成する酵素である。この酵素は可逆的な酵素であり、H^+-ATPaseとも呼ばれている。本研究ではATP合成酵素による化学反応(ATP合成/分解)とH^+輸送の共役機構を分子レベルで明らかにすることを目的としている。詳細な部位特異的な変異導入と化学反応とH^+輸送の解析から以下の点が明らかになった。 (1)本酵素の活性中心はβサブユニットにありLys-155,Thr-156,Glu-181,Arg-182の各アミノ酸残基が解媒反応に関与している。 (2)これら残基の近傍にGly-172,Ser-174,Glu-192およびVal-198が位置している。これら(1)と(2)の結果から本酵素の活性中心のモデルを提出した。 (3)本酵素の解媒頭部を形成しているαとβ両サブユニットの相互作用が化学反応とH^+輸送の共役に必須である。例えばβSer-174→Pheの変異により共役は失われるが、αサブユニットの第2の変異αArg-296→Cysによって共役は回復する。 (4)γサブユニットの変異Met-23→ArgあるいはMet-23→Lysによって共役は失われATP分解活性のみが残る。しかしカルボキシル末端側に第二の変異、例えばThr-273→Ser,Glu-278→Glyのようなアミノ酸置換を導入すると共役は完全に回復する。これはγサブユニットのカルボキシル末端側とアミノ酸末端側が相互作用をしながらH^+の輸送と化学反応の共役を制御していることを示している。 これら4点に要約される成果はいずれも世界に先じて得られたものであり、イオンポンプ酵素の理解に貢献するものである。現在さらに本酵素の活性とH^+輸送機構を詳細に明らかにするべく研究を進めている。
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