細胞膜上のトランスフェリンレセプター(Tf-R)を直径10nm程度(ちなみにヘモグロビンの直径は7nm)の金コロイド微粒子で標識し、レセプター1分子の細胞膜上での運動を空間精度1nm、時間分解能33ミリ秒で追跡することに成功した。さらに、レーザー光ピンセットを用いて金微粒子を補捉し、レセプターを細胞膜上において強制的に動かしていくことに成功した。これらの方法を用いて、膜骨格フェンス構造が細胞膜の基本的な構造であり、膜骨格は動的で弾性のある構造であること、トランスフェリンレセプター(Tf-R)は平均25秒毎に隣接したコンパートメントへ移動していくこと、さらに膜骨格を乗り越えるのに必要な力は、Tf-Rの場合には、0.1ピコニュートン程度であること、を示した。 細胞膜には、被覆ピット、細胞間接着構造のような、特定の膜タンパク質と裏打ちタンパク質が集合して形成される(動的に形成・分解が繰り返される)機能ドメインが存在しており、多くのきわめて重要な膜機能を司っている。しかしながら、このような機能ドメインの形成機構、特に膜タンパク質が細胞膜の特定の領域に集合する分子機構は、膜タンパク質の移動を直接に観察し操作する手段がなかったために、ほとんどわかっていなかった。そこで、我々はTf-Rを取り上げ、細胞膜上での移動・集合経路を検討した。我々の結果は、Tf-Rが被覆ピットに集合するときには、細胞膜上を拡散しつつ、徐々に他の被覆ピットを形成するタンパクと結合して、成熟した被覆ピットを形成していくことを示唆した。
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