細胞活動の分子機構を探るために、膜小胞中で細胞骨格を再構成させる系を確立した。 (1)モデル細胞形態形成における細胞骨格の機作。 混合人工脂質あるいは生体脂質の乾燥物に、チューブリンまたはアクチン溶液を加え、低温で膜小胞を形成させた。微小管の重合によって球形リポソームの両端に管状突起が形成された。また、浮遊小胞中では再構成アクチン繊維が自然に束を形成することが分かった。これらのリポソームはモーター蛋白質やATPを含んでいない。従って、リポソーム形態変換の原因は細胞骨格のすべり運動ではなく、タンパク質の重合反応である。 (2)立体的ネットワーク構築に働く骨格結合タンパク質群の働き方。 MAPsを含まないDEAEチューブリンをリポソームへ封入した。MAPsを含む場合には、変形したリポソームの大多数が両方向に突起を出しているのに対して、DEAEチューブリンでは片方向しか突起を出さないリポソームの割合が著しく増加した。これは、MAPsを除去することにより微小管の動的不安定性が活発になったためであると考えられる。しかも、リポソーム中のDEAEチューブリンにMAPsを再添加していくと、加えたMAPsの量に依存して両方向に突起を出すリポソームの割合が増加した。これらの結果はMAPsと膜との間に相互作用があることを示している。 また、アクチンを封入する系にアクチン束化因子であるa-actininを同時にリポソームに封入した。a-actininの働きにより、リポソーム内でアクチンが束化されると、微小管を重合させた場合と同様の突起が形成された。 (3)細胞骨格の形成と分解のメカニズム 微小管が重合相と脱重合相の間の相変換を微小管結合タンパク質(MAPs)がどのように制御しているのかを検討した。主要なMAPsであるMAP2が微小管上に集合状態をつくりながら結合するという協同性があることがわかった。そしてその結合量の増加に伴って微小管の脱重合相から重合相への相変換が起きやすくなり、微小管を安定にすることを見いだした。
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