真核細胞の分泌経路への入り口にあたるオルガネラとして小胞体(ER)は蛋白質の膜透過のみならず膜蛋白質のトポロジー形成と仕分けにも重要な機能を果たしている。ER膜を構成する膜蛋白質がどのようにして他のオルガネラへの輸送を免れてERに留まるのかという問題を生化学、細胞生物学および分子生物学的手法によって明らかにすることが本研究の目的であり、本年度は以下の事柄を明らかにした。 (1)P-450のER残留シグナルと残留様式の解析 我々は分泌型カルボキシエステラーゼ(Esec)をレポーターとして用いP-450との融合蛋白質のCOS細胞内での挙動を解析することによってP-450の膜結合領域(SA)にER残留シグナルがあることを証明した。またカテプシンDをレポーターとしてP-450は恒常的にERに留まっていることを示した。さらに、用いたすべてのコンストラクトについてそれらの細胞内局在を蛍光抗体法によって解析し、生化学手法で得られた結果を形態観察によって裏ずけることができた(投稿済み)。 (2)膜蛋白質のER残留にかかわる遺伝子の解析 ERに局在する膜蛋白質のいくつかはC末端の配列KKXX又はKXKXX(ダブルリジンモチーフ)がER残留のシグナルとして働いていることが知られている。我々は酵母を用いてこのモチーフを持つ膜蛋白質のER残留に関わる遺伝子を検索するために、インベルターゼのC末端に膜貫通領域とダブルリジンモチーフを持つ融合膜蛋白質を作成した。細胞表面に輸送されたインベルターゼのみを検出できる発色法を用いて、変異剤処理後ER膜結合型インベルターゼをERに保持できずに細胞膜にまで輸送する酵母の変異株を選択した。現在、ts性を示す5株について表現型の解析、テトラッド解析および遺伝子のクローニングを行なっている。
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