原索動物ホヤのオタマジャクシ幼生の発生にともなって幼生の尾部に42個の単核で横紋をもった筋肉細胞が分化する。この分化は予め卵細胞質中に存在する筋分化決定因子によってもたらされると考えられている。この分化決定因子は、現代発生生物学的知見から推論すれば、筋肉細胞特異的構造遺伝子の転写制御因子かもしくはそれをコードする母性mRNAであろうと思われる。この分化決定因子の分子的実体を明らかにすることを目的とた本研究で、現在までに次のような成果が得られている。 ユウレイボヤの未受精卵を軽く遠心すると、卵は4つの卵片(赤卵片、透明卵片、黒卵片、茶卵片)に分かれる。媒精すると有核の赤卵片のみが発生するが、発生した胚は永久胞胚となり、表皮細胞は分化するが筋肉細胞は分化しない。しかし、赤卵片に黒卵片を融合すると融合片から発生した胚では顕著な筋肉細胞分化が認められる。他の2つの無核卵片にはそのような活性はないので、この結果は筋分化決定因子が黒卵片に分画されたことを示唆する。次に、黒卵片に紫外線を照射すると赤卵片に対する筋分化誘導活性が失われる。これに有効な紫外線の波長などから失活する分子はmRNAであろうと考えられる。そこで、予め紫外線を照射した黒卵片にインタクトな黒卵片のmRNAを注入した後で赤卵片と融合すると筋分化誘導能が回復する。したがって、黒卵片中の母性mRNAが筋分化決定因子として何らかの役割を担っていると考えられる。そこで黒卵片と赤卵片のそれぞれのcDNAライブラリーを作り、デファレンシャルスクリーニングによって黒卵片特異的cDNAクローンの単離を試みたところ、現在までに3つのクローンが得られたので、現在その解析を続けている。
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