動物の初期発生において発生時期特異的あるいは胚組織特異的に遺伝子を発現させるしくみの解明は、発生過程を遺伝子レベルで理解する上で最も重要な課題である。我々はウニ発生においてアリールスルファターゼ(Ars)遺伝子が発生時期特異的かつ胚組織特異的に発現することを見いだし、Ars遺伝子をモデルとして初期発生における特異的遺伝子発現の調節機構の研究を進めてきた。本研究においてはウニ胚Ars遺伝子の発生時期特異的・組織特異的転写に関わるシスエレメント及びそこに結合する蛋白質因子の検索を行った。研究の成果は次の通りである。(1)Ars遺伝子上流には多数のGストリング配列、NF-κBあるいはド-サル蛋白質結合配列、極めてCTリッチなポリピリミジン領域があり、ポリピリミジン領域はHoogsten塩基対形成により3本鎖DNA構造をとっている。(2)遺伝子上流のGストリングとド-サル配列に特異的に結合する蛋白質がウニ胚細胞核に存在する。(3)Ars遺伝子の発生時期特異的転写を決定している領域は転写開始点からその上流-100bの間に局在する。(4)Ars遺伝子の量的転写レベルを決めているのは、第1イントロン内の229b配列である。(5)第3イントロン内にはアンテナペディア蛋白質結合配列に類似するTAA反復配列があり、この配列に特異的に結合する蛋白質がウニ胚細胞核に存在する。ウニ胚をLi^+処理して中・内胚葉胚化すると、外胚葉特異的なArs遺伝子の発現は低下し、中胚葉及び内胚葉に特異的に発現する遺伝子の発現が増大し、このときTAA反復に結合する蛋白質量が増大した。(6)サウスウエスタン法で得たGストリング結合蛋白質cDNAクローン4種の塩基配列を決定した。いずれも酸性アミノ酸と塩基性アミノ酸の反復する配列をコードしている。これらは新しいDNA結合蛋白質と思われる。(7)Ars遺伝子の組織特異的転写にはポリピリミジン領域を含む上流域が関わっているようであるが、確証を得るにはいたらなかった。(8)DNA結合蛋白質の転写調節因子活性を検定するためのArs遺伝子インビトロ転写系も確立した。
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