マウス始原生殖細胞の増殖制御と雌雄配偶子形成へ向った細胞分化の機構を解明することと、発生工学的研究を目的とした。まず、マウス胚から取り出した始原生殖細胞をこれまで以上に長期間、培養下で増殖させながら維持するために培養条件を更に改良した。次に、培養下の始原生殖細胞に対する生殖巣の体細胞からの影響の解析を試みた。さらに、培養下で増殖させた始原生殖細胞への遺伝子導入を行なうことによる発生工学的手法の開発についても検討した。具体的には、マウス胚の7日齢から14日齢までの各発生段階から、始原生殖細胞ならびに生殖原細胞を取り出して、体外で培養する条件を検討して改良した。フィーダー細胞や、培養液に加える各種因子の効果を解析した。その結果、膜結合型SCFを発現している内皮細胞株であるSl/Sl^4m220細胞をフィーダー細胞として用いて、細胞内のcAMPレベルを上昇させるフォルスコリンを与えることによって、7〜8日齢の始原生殖細胞を7〜10日間増殖させて、体内内とほぼ同じ速度での細胞数の増加を実現させることが出来た。一方、11日以降の、既に生殖巣に到着した生殖細胞についても、レチノイン酸などの増殖促進効果を発見するなど、培養方法の改良によって、数日間生存させることが可能になり、この間に基質に接着した始原生殖細胞型から、接着性を弱めた生殖原細胞への分化を観察することが出来た。すなわち、この時期に起きる卵母細胞または精原細胞への雌雄分化の制御機構を解析するための実験系の準備が整ったことになる。一方、改良された培養条件を用いて、生殖細胞への遺伝子導入を開始しており、まずSV40T抗原のように、遺伝子発現を検出しやすく、生殖細胞の増殖制御などの生物特性に影響を与える可能性を持つ遺伝子を培養下の生殖細胞に導入して、遺伝子導入効率を調べた。
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