現在各種の神経栄養因子が見つかっているが、それらの作用については極めてヘテロジーナスであり、多種の培養細胞内増殖、分化、突起伸展等多様な作用を有すると言われ、その作用の実体についてはきわめて曖昧なままで置かれている。これらの微量因子の作用を調べる一つの方法はジーンターゲッティングによってその産生を断つことが考えられるが、このような発生分化に重要な物質の場合、実験動物が成長して生まれてくることは期待できず、必ずしも有効な方法とは言えない。従って発生するある段階で任意な時期に任意の部位でこの物質を必要とする神経細胞のみを特異的に破壊することができれば、脳の形態形成、神経のネットワーク構築などの現象をさらに明確に検討できるようになろう。我々は平成4年度までに神経成長因子に細胞毒を架橋することによって特異にその受容細胞を破壊できることを示した。しかし、蛋白質どうしの架橋は多くの同一ロットの架橋物を得ることが難しい。さらに未反応の細胞毒素が不必要に残存し、データの明解さを損なう恐れがある。従って今回の目的は哺乳類細胞において発現する発現ベクターに毒素遺伝子を組み込み、これを栄養因子と架橋することによって細胞内導入を試みる。取り込んだ細胞はそれ自身の蛋白合成機能のために自殺に追い込まれるわけである。栄養因子については神経成長因子および線維芽細胞成長因子を中心に検討し、これらの神経維持作用を中心に証明する。このことは引いてはアルツハイマー病など老化の疾患の治療に役立つと考える。細胞導入法として、成長因子とHigh Mobility Group(HMG)蛋白を結合させこれとHMGのプラスミッドへの結合性を利用して、プラスミッド・成長因子コンプレックスを形成させる。これを脳内へ注入して、ラットのアセチルコリン細胞が特異的に破壊されるかどうかを検討する。プラスミッド・成長因子コンプレックスはすでに作成した。方法としてHMG蛋白と成長因子をCDI法によって架橋した。このような架橋物はプラスミッドとの結合能は失われていなかった。この架橋物はin vivoでの遺伝子導入に使用かどうか次年度に検討する。
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