研究概要 |
本研究の申請者らのグループは、ラット脊髄を材料に用いて、グリシンに応答する受容体の分子実体を明らかにする研究に取り組んできたが、この過程で、2種類の受容体サブユニット(α1およびα2と命名)をコードするcDNAをクローン化することに成功した。アフリカツメガエル卵母細胞に発現させたα1、α2サブユニットタンパクは、それぞれ単独で機能的なグリシン作動性クロライドチャネルを形成するものの、その生理的、薬理的性質には若干の違いが認められることから、サブユニット構造の僅かな違いがチャンネルの特性に微妙に影響することが示唆された。この点をより詳細に検討するため、α1およびα2受容体cRNAを注入した卵母細胞から切離したパッチ(outside-out patch)を用いて、両受容体単一チャンネル電流の性質を比較したところ、チャンネルの平均開口時間がα1受容体では2ミリ秒、一方、α2受容体では200ミリ秒と、実に100倍の違いがあることを見出した。α1、α2受容体サブユニットはアミノ酸配列において高い相同性(72%ホモロジー)を示し、特に、チャンネル機能発現に重要とされる膜貫通部領域においては、わずか十数個のアミノ酸が異なっているにすぎないにもかかわらず、チャンネル開閉機能には大きな違いが観察されることは、レセプターチャンネルのゲート機構を検討するための優れたモデルになるものと思われる。 初年度はα1・α2受容体サブユニットの構造を比較し,アミノ酸配列の異なる部分を点変異法により改変した変異サブユニットDNAを合成した.次年度は変異DNAを鋳型にしてRNAを合成し,ツメガエル卵母細胞に発現させてホールセル膜電位固定様式にてグリシン電流の解析を行った.記録される変異受容体由来のグリシン電流は野生型のものに比べて著しく小さいもので,単一チャネル解析を行うまでには至らなかった.
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