ラットの末分化ニュローンではインキュベータ内の50%気相酸素濃度の培養で細胞死が起こる、この死はアポトーシスの形態をとることを明らかにした。即ち、高酸素によるニューロン死は蛋白質合成阻害剤であるシクロヘキシンミドによっても顕著に防がれることなどを観察した。新たな遺伝子、蛋白質の発現を死が要求していることが明らかとなったので、アポトーシスによって誘導される遺伝子の探索を行った。ラット胎仔20日齢の全脳ニューロンを用い、培養時のインキュベータ内の酸素濃度を50%にし、1〜6時間培養した後、各々の時間のニューロンからmRNAを抽出し、PCRを用いるディファレンディスプレイを行い、高酸素に伴うアポトーシスによる死によってニューロン内に誘導される数種の遺伝子を単離した。現在これらの遺伝子について、一部はクローニングを終えているが、残りについても構造上の知見を集めつつある。また、これら遺伝子群が実際にアポトーシスに関連したものか否かを調べている。 生後8〜9日齢のラット小脳顆粒細胞は、in vitroにおいて高カリウム培地(26nM)で4〜5日培養後、細胞外液を通常のカリウム濃度(5nM)に変えると大量の細胞死が起こる。この死がアポトーシスであることを明らかにすると共に、この死がBDNFを添加することにより、顕著に抑制できることを観察した。また、NT-4/5でも同様の効果が観察した。一方、NGF(100ng/ml)を添加しても生存率は無添加の場合とほぼ同程度であり、細胞死抑制効果は見られなかった。NT-3は僅かであった。抗c-Fos抗体を用いた細胞免疫染色法により、BDNFは小脳の顆粒細胞に直接作用して細胞死抑制効果を示すものと考えられた。
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