本年度は、2頭の日本猿慢性標本を用いて、小脳傍片葉の関与する可能性のある追跡眼球運動の学習パラダイムを開発した。眼前のスポット状の視標を注視することを条件付けし後に、サーチコイル法により、眼球位置をリアルタイムに記録しながら、視標をステップ(5度)-ランプ状(10度/秒)に動かした。猿は潜時200ミリ秒で、小サッケードとそれに続く追跡眼球運動をおこすが、追跡眼球運動の開始と同時に80-200ミリ秒視標の速度を2倍もしくは1/2に変え、そこで視標を消去したところ、約50回の試行で、サッケードの直後(50-100ミリ秒の間)の追跡眼球運動速度に有意の変化が生じ、約200回の試行(15分程度)で、約40%の増加もしくは減少が見られた。一方、視標の速度を変化を与えないコントロールの試行では、200回程度試行を連続的におこなっても、サッケードの直後の追跡眼球運動速度には有意の変化はみられなかった。 次に、この追跡眼球運動の適応性変化の視標速度依存性、および視野の中の視標位置依存性を調べたが、依存性は見られんかった。また、この追跡眼球運動の適応性変化と前庭動眼反射の適応性変化を調べた。まず、追跡眼球運動の適応性変化の前後で、前庭動眼反射の動特性を測定したが、変化は見られなかった。さらに、前庭動眼反射の適応性変化の前後で、追跡眼球運動の動特性を調べたが、変化がみられなかった。このことは、追跡眼球運動の適応の神経機構が、前庭動眼反射の適応の神経機構と独立に作用していることを示唆する。これらの結果を、1995年度日大国際シンポジウム、平成8年度の日本生理学会で発表した。さらに速やかに学会誌に投稿する予定である。
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