霊長類の眼球運動の小脳制御に関して、研究代表者は、慢性日本猿標本を用いた神経細胞活動記録実験の結果から、随意運動である追跡眼球運動(Smooth Pursuit)と眼球反射である前庭動眼反射(VOR)は、それぞれ小脳腹側傍片葉と片葉により独立に制御されているという仮説を1992年に発表してるが、この仮説を、本研究では、さらにWGA-HRPやPHA-Lの軸索流を用いた系統解剖学的方法、小脳核の微小刺激実験、追跡眼球運動の適応パラダイムの応用と、それぞれ異なった方法で検証した。その結果、日本猿の腹側傍片葉は主に橋核から苔状線維入力を受け、小脳中位核、歯状核に出力するのに対して、片葉は主に前庭核、前庭神経、橋被蓋網様核から苔状線維入力を受け、前庭核に出力することを明らかにした。また、小脳核の眼球運動領域を、微小電極による局所刺激法でマップし、腹側傍片葉が出力する中位核の領域に、追跡眼球運動野を同定した。さらに、追跡眼球運動の動特性に短時間に適応性変化を生じさせる実験パラダイムを開発し、追跡眼球運動の適応と、前庭動眼反射の適応の干渉を調べたが、両者は干渉しないことを見いだした。これらの所見は、追跡眼球運動と前庭動眼反射が、それぞれ独立に制御あれていることを、ハードウエア及びソフトウエアの側面から支持するものであり、追跡眼球運動と前庭動眼反射がおもに片葉によって共通的に制御されているというLisbergerとSejinowskiの見解(1992)を否定するものである。
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